他の記事で書いた通り,研究室選びで最も重要視すべき観点は,自分のしたい研究ができるかどうかです.これは研究室の雰囲気が自分に合うか,教授との相性が良いかといった観点よりもさらに上位にくるものです.これから研究室選びをする人は,自分が将来したい仕事を思い浮かべた上で,その仕事に最も繋がるような親和性の高い研究内容を行なっている研究室を志望されることをオススメします.
とはいうものの,初めて研究室選びをする中で希望する研究室を1つに絞り込めなかったり,大学入学時と大学院入学時でやりたい研究が変わり各大学院の研究室を広い範囲で見る必要に迫られることは往々にしてよくあることです.
そこで今回は私が実際に研究生活を体験してみて感じたことの中から,人数という観点に絞って,大所帯の研究室をオススメする理由を解説します.
1. 人数が多いと研究が加速される
大学の研究はある種マンパワー勝負なところがあります.世界に対して研究成果でプレゼンスを示しているチームは比較的大所帯のチームが多いです.例えば基礎物理の研究をするチームがあった場合,人数が多いと,理論を構築しシミュレーションベースで事象を解き明かすチームと,実験ベースで実験結果から事象を解き明かすチームの2チームを作ることができます.同じ物理事象を別の視点から研究しており,互いに相互作用を起こすことができるため,研究は加速されます(シミュレーションから得られた結果から物理量を決めて実験したら成功した等).一方研究室の人数が少なければ当然これらのことを少人数,もしくは1人で行うことになり,研究で行き詰まった時にブレイクスルーを起こす可能性は低くなってしまいます.博士ならまだしも,研究内容を理解しきれていない学部生や修士の学生が何度も単独でブレイクスルーを起こすことは極めて稀です.そういった意味では,研究室における博士課程の学生の存在意義は非常に大きいと言えます.博士課程の学生が多ければ多いほど,他の研究室に対して競争優位性を持っているとみてよいです.また世界でプレゼンスを示している研究室には,留学生も含めて志望してくる学生が増える傾向にあるので,結果として大所帯になるという見方もできます.
2. ノウハウが個人ではなくチームに蓄積される
会社でもそうだと思いますが,人数が少なければ少ないほど仕事は属人化します.つまりその人にしか出来ない仕事(研究)が存在するようになります.大所帯の研究室では,研究内容は属人化しにくく,特定の学生が抜けてもチームで作業を引き継ぐことになるので研究プロジェクトは回り続けることが多いです.少人数の研究室で学生が抜けた場合,その学生が保有する知識や技術を受け継ぐ継承者が十分にいないため,研究内容を下の世代に引き継ぐことが非常に困難になります.結果として研究プロジェクトを長期間継続することができずに,知識や技術も貯まらず研究内容がブツ切れになってしまうことが多いです.今度は研究室配属される側の立場になって考えてみましょう.研究室配属で大規模な研究室に入ると,研究室が貯め込んできたナレッジ(知識)を受け継ぎ,自分の世代でその研究内容を前に進めるという研究スタイルになりがちです.博士課程の学生も多いでしょうから,十分な指導を仰ぐことができるでしょう.一方,少人数の研究室に配属となった場合,研究プロジェクトは上の世代でブツ切れになっている可能性が高く,新たに研究内容が割り当てられる(もしくは自分で探しに行く)ことが多いです.指導を仰げる上の学生があまりいないので,教授と二人三脚で研究を進めることになります.そして自分の卒業と同時にその研究内容は途切れるか,もしくは次に適任の学生が入ってくるまでペンディング(保留)のような状態になります.一旦区切りの形になるわけですね.どちらがいいかは正直個人に依ると思いますが,世界で結果を残すことができるのは前者の研究室であると思います.また,海外での学会発表の経験は企業側にとっても経験豊富な学生ということでリストアップされるので,就活にも有利になります(賞などを取っているとさらに評価は高くなります).
楽しく居心地が良い
これは完全に個人の見解なのですが,声を大にして言いたいです.大所帯の研究室の方が少人数の研究室より日々の研究生活が楽しいです.楽しい研究生活を求めるのであれば絶対に大所帯の研究室に入った方がいいと思います.極端な例を出しますが,1学年に学生が5人ずついる計20人の研究室と,1学年に学生が1人いるかいないかの計3人の研究室を比べましょう.それぞれに自分が入って,飲み会や合宿,花見などのイベントをするとしたらどちらが楽しいでしょうか?ほとんどの人が20人の研究室を選ぶと思います.私は大所帯の研究室,小規模な研究室のどちらにも所属した経験がありますが,研究生活の楽しさは圧倒的に大所帯の研究室が上でした.あくまで予想ですが,少人数の研究室はそもそも飲み会や合宿といったイベントはほとんど開催されないのではないでしょうか(研究室合同の飲み会に組み込まれるくらいはあるかもしれません).毎回3,4人で飲んでもすぐ飽きるからです.研究生活そのものを見てみても,研究の醍醐味は研究を前に進ませるためのディスカッションにあると個人的には思うので,研究をしていく上で1人か2人くらいしか話す学生or教授がいない研究室よりも,多くの学生や研究者と話すことができる大規模研究室の方が絶対に楽しいと思います.居室にいる時の雑談1つ取っても,同期が5人いるか1人もいないかでは感じ方が全く異なってきます.また大所帯の研究室を選ぶ理由としてリスクの分散が挙げられます.同期が自分の他に1人しかいない場合,その同期が体調不良で長期間離脱してしまうとその瞬間研究室で同期は1人もいなくなります.また学生が全部で3人の研究室だとしたら,先輩が留学に行くと決まった瞬間,指導を仰ぐ人が教授以外に1人もいなくなってしまいます.このように小規模研究室は各学生の動きが研究室に与えるインパクトが大き過ぎるのです.大所帯の研究室であれば,先輩が1年間留学したとしても代わりに他の博士課程の学生とディスカッションすることができます.
以上のように,研究室を人数という観点で見た場合,大規模研究室の方が少人数の研究室よりも研究の質・生活の楽しさ・リスク分散的に優れてることが多いです.あくまで研究室選びの第一の指標は自分のしたい研究ができるかどうかですが,それでも複数の研究室で迷った場合は,その研究室に一体どれくらいの人数がいるのかという指標を加えて考えてみてください.